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叶わなかった…………
結局、僕は自分の理想を信じただけで何も成せなかった。
ゆっくりとナイフを下ろす。さっきまでまっすぐだったはずの僕の目は、俯いて生気を失っていた。
「あの子なら私を仕留められたかもね」
女が、僕が無力であることを言葉にして知らしめる。
「アナタはあの子を信じたかもしれないけど、私も同じくらい……いや、それ以上に信じてたのよ。そうでなきゃ、あの子が一人で殺人鬼を演じるなんて言ったことを許すはずがない」
「な……あの案は……アリシア自身が……?」
女はそうだともと言わんばかりにゆっくり頷いた。まっすぐな目だ。とても嘘には思えない。
「お出掛けに連れていった時、たまたま指名手配のポスターを見たの。そしたらあの子、『私が殺人鬼になっていっぱい懸賞金を稼ぐ』なんて言い出すもんだから。夫を失ったばかりの私を気遣ったんでしょうね。もちろん驚いたし、反対したわ。そんなこと出来るはずないもの。でもあの子の考えを聞いてると、それがなかなか現実性に富んでいたのよ。あの年で大したものだわ」
嘘ではない。アリシアがそう言い出したのは嘘ではないだろう。でも、違う。この女は悪くないなんてこと、あってたまるものか。殺されかけたのに、この余裕はなんだ。罪があり、それを隠し通せると思っているからこそ、こんな表情でいられるのだ。
「…………お前は、最初からアリシアを利用することしか考えていなかった。もしお前にアリシアを大切に思う気持ちがあるなら、アリシアが最初にその案を出した時に考えるのは『そんなこと出来るはずない』じゃなくて『危ないからやめなさい』であるはずだからだ」
フフッと女が笑う。バカにしたような、面白がっているような仕草。身震いがした。
「アナタって面白いわね。……いいわ、答えられるもの全てに答えてあげる」
女が長い脚を組み換えた。
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