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「アリシアを男たちに襲わせたのもお前か」
「あら、よく分かったわね。でも少し違うわ。あれはアナタと親しくならないうちに遠ざけたかったの。あの子は背中に火傷の傷があるから、それを確認したら連れて帰れって言っておいたわ。間違えて他の女の子連れて帰られちゃ本当に誘拐犯になっちゃうもの。最も、それはアナタのお陰で失敗に終わったけどね」
この女は自分を汚さない。他人を動かすことで、私利私欲を満たしているのだ。
ツーッと、僕の頬を汗が流れた。暑さのせいだけではない。
そこまですることに何の意義があるのか。
「何が目的だ?アリシアを殺人鬼に仕立てあげたところで、手に入る金はその苦労とリスクに見合わない額だというのに……」
いい質問ね、と女は笑う。アリシアの純粋な笑顔と比べてで何て生々しい笑顔だろうか。
「正直、お金何てどうでも良かったの。私の本当の目的は──」
ごくり。生唾を飲んだ。
「むしろ殺人の方よ。誰でもいいから殺したかったの」
「は…………?」
僕は何か聞き間違えたのだろうか。いや、小さい頃から耳は人並みに機能していた。ここは雑音もあまり入らない静かな空間。つまり今聞いたのは生の人間の声だ。
テレビの中で拘束されて車に乗る、殺人鬼たちと同じ言葉を聞かされるなんて思ってもみなかった。同時に、自分の身に迫る恐怖に怯える。
「私が殺させたのは、大した経済力もないくせに私たちから巻き上げたお金でのうのうと年金や生活保護やらで生きてるの。おかしいと思わない?だから私は大金で雇った殺し屋たちに独り暮らしの人間を毒殺させたの。
そして、そこへあの子を向かわせて、罪を被せるの。あの子の頭に埋め込んだ機械にその情報を流して、殺人現場にたどり着いたあの子に防腐剤と称したただの白い粉をかけさせる。"殺人は救済だ"そう言うと彼女は快く引き受けてくれたわ」
次々に語られる真実は、余りにも残酷で聞くに絶えなかった。
女がコーヒーカップをテーブルの上に落とした。ガシャンと大きな音がして、粉々になったカップの破片の一つを拾い上げる。
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