第1章

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 あるところに、大金持ちの男が居た。  その男は、休日を利用して、仲の良い科学者の元まで来ていた。 「博士、久しぶりだな」 「おお、きみか。久しぶりだね」  研究室内にあるイスに座ると、二人は思い出話に花を咲かせた。  男は、ふいに部屋の隅に目を向けると、女性の人形が立っていた。 「おい、あれはなんだい?」 「ん? ああ、あれはロボットだよ」 「ロボット? そうは見えないけど」 「人間と間違うほどに、綺麗に作ったからね。そのロボットは家事は出来るし、歌を歌うことも出来るし、雑談なんかも出来る」 「へー、万能なんだな」  男は、ロボットについての話を聞いていくうちに、だんだんとそのロボットが欲しくなった。 「なあ、よければそのロボットを一週間貸してくれないか? なんなら金を払っても良い。いくらだい」 「いや、金は要らないけど、そんなにこのロボットのことが気に入ったのなら、貸してあげよう」 「本当かい、ありがとう」  嬉々と、男はロボットを家に持って帰った。  命令したことは従順に従い、なんでもこなし、暇潰しに雑談をしたり、ビリヤードをしたりした。男は満足していた。このロボットを得るために、全財産を払っても良いとさえ思うほどに。しかし、一つだけ疑問に思っていることがあった。  それから一週間が経ち、約束通りに男はロボットを連れて、研究所まで来た。 「ありがとう、博士。博士の言う通り、あのロボットは優秀だよ。何をやるにも人間らしい」 「そうだろ」 「けど一つだけ、不思議に思っていることがあるんだが、何故外見は人間で、人間らしい仕草や雑談が出来るのに、どこかロボットだと感じてしまうのだろう」 「それはそうだろう。なにせ、そいつはロボットなんだから。いくら人間らしい外見や会話が出来ても、人間の心までは真似出来ないんだ。だから人間は素晴らしいんだ」 「ああ、なるほど」  金をいくら払ってでも欲しいと思わせる所がロボットで、人間が一緒に居たいと思うのは、いくら払ってでもじゃないもんな。  納得した男は、目の前に出された紅茶を一口飲んだ。
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