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 一瞬鋭く左足を貫いた痛みに、思わずよろめく。しゃがみ込んで靴を脱いでみると、水色だった靴下がところどころ赤黒く変わっていた。  吐く息もまだ白く、雲一つない寒空の下を、一人歩く。月明かりに照らされた自分の青白い影を見つめながら、どこへともなく足を進めた。  歩き始めてからどれくらいの時間が経ったのかも、どれくらいの距離を歩いたのかも解らない。ただそれが今までで一番長い時間、長い距離であることだけは確かだった。 (もう、歩けない……)  山の麓に造営された住宅街の一角に見つけた小さな公園に入り、ところどころペンキの剥げたベンチに腰を下ろす。座ったまま二度と立てなくなりそうな程痛む足に手を置き、頭を垂れた。  周りには当然ながら人影もなく、冷えきった空気がじわじわと自分の身体を凍てつかせる。 (……家出なんて、しなきゃよかった……)  夜、いつもそろそろ寝ようかという頃になると、父が帰ってくる。  大概あの男は酔って帰宅する。酒に溺れ、我も忘れ、母親に手を上げる。そこで声を上げようものなら矛先は容赦なく私に向かい、傷を作り、痣を残す。自分だけは傷を負わないようにと、必死に声を潜める夜が続いた。  限界だった。  肉を打つ音を聞いて声を上げることが出来ないことに。  自分だけはと思い、助け船を出すことが出来ないことに。  獣の咆哮のような声を上げて暴れるあの男に。  ──耐えきれなかった。  そんなことが続いて、もう二年は経っただろうか。  誕生日の夜だというのに、遅く帰ってきたあの男はまた暴れる。  気付けば、弾かれたように走り出す自分がいた。  寝間着のまま飛び出し、風で震え続ける身体をさする。 (これから、どうしようかな……)  今から家に戻ったところで、再び我が身に傷が膿まれることは目に見えている。かといって、他に凍える身を寄せるあてなどない。次第に身体の抹消から冷え、感覚がなくなっていく。 (もうどうなってもいいや……)  半ば投げ出すようにベンチに身体を置き、意識を手放した。
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