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 微かな足音に顔を上げると、深緑をした瞳と視線が絡まる。その珍しい綺麗な色に気を取られていると、ひんやりと硬い地面からふわりと身体が浮き上がる。距離が縮まった澄んだ緑。ふっと逸らされた視線に合わせて進行方向を向く。  木々の狭い間隙の先に見える細長い漆黒の夜空。  土を踏みしめて進むしっかりとした力強い足音。  次第に幅が広がる漆黒の中で増えていく光の数。  木々を撫で音を立てて過ぎ去る微かな冷たい風。  暖かく大きく私を包み込む腕。  肌を通して伝わってくる鼓動。  とてつもなく緊張しながら、どこまでもそのまま歩いていくような錯覚に襲われていた。  足音が止まる。  目の前には点々と灯る街明かりが広がっていた。  少し古びた東屋の椅子に座らされ、肩から黒の上着を掛けられる。仄かに甘い香りがして、とても暖かい。 「……何でこんな時間に出歩いてたんだ?」  あちこちの自動販売機に置かれているホットココアの缶を差し出しながら問いかける声。顔を上げると、少し鋭い目つきをした男性が正面に座っている。 「親と喧嘩でもして、家出してきたって顔だな」  当たらずといえども遠からずといった発言に、じわじわと涙腺が緩む。 「グチなら聞くぞ。何があったのか言えよ」  初対面の男性の前で顔をクシャクシャにして泣き出すなどと年甲斐もないようなことをしながら、何もかもを話した。  父親が酔っぱらって暴力を振るうこと。  それが母や自分に傷を負わせていること。  傷跡のせいであらぬ噂が立てられ避けられていること。  孤立し、誰にも相談できなかったこと。  自分に自信がなくなっていたこと。  話し始めれば切りがなかった。  気付くと缶は空になっていて、寝間着の袖は涙で濡れていた。
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