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「それで、お前はどうしたいわけ」  そう聞かれて、言葉に詰まる。特にこれと言って考えたことがなかった。考えても無駄だと諦めていた。 「……結局さ、不幸な自分に酔ってるだけじゃねぇの? 考えても無駄だとか思って、諦めて、それでもいいとか思ってるんじゃねぇの? 一度考えてみろよ」  図星だった。自分に自信が持てないのも、考えもせずに諦めているのも、全てそのせいにしていた。  自分のせいだと、認めたくなかった。  しばらくして、すぐ側に立った彼は、タオルを差し出しながら続けた。 「……少しキツかったな。でもさ、ちっぽけでも勇気持つってことは大事じゃねぇの? 自分の足で踏み出すってことは大事じゃねぇの?」  上着と同じ甘い香りのするタオルを受け取り、顔を拭きながら頷く。  彼は私の肩にそっと手を乗せ、帰ろう、と囁く。  その温かい手を握りながら、細道を降りる。  手が離れたと思うと、彼の姿は見えなくなった。  すぐ目の前には、近所の交番。  顔見知りの警官に父親のことも家出のことも話し、家へと送ってもらう。  怒声を挙げながら連れ出される父親。  一度叩いた後私を強く抱きしめた母親。  すぐ後ろで小さく猫の鳴き声がした気がした。  雲一つない澄んだ碧空を見上げる。  春を告げる暖かい風が優しく吹いてくる。  水色のマフラーを鞄の中に仕舞って、足を踏み出す。  いつも自分を覆い隠していたものがなくなり、軽い足取りで学校へ向かう。  弾んだ足取りが見えなくなるまで、蒼と緑の瞳をした白と黒の猫が少女を見つめていた。             (Fin.)
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