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「でっ」
「だ大丈夫ですか?」
よほど慌てていたのだろう。彼女は受け身もとれずに背中から落ちて後頭部を打ち付けていた。多少のラグはあったものの打ち所は良かったのか、むくりと体を起こして再度僕に手を出す。
「返して」
上気した顔で、凄い気迫で僕に迫る。ここまで感情を露にした彼女は初めてだった。そこまでして見られたくない物なのかと一瞬戸惑ったが、彼女の必死な表情に見たいという衝動を押さえ込む他なかった。
「どうぞ」
便箋を渡そうとすると、真田はそれを奪い取るようにして乱暴に懐に納めた。ふっと息をついた彼女だったが、すぐに僕を咎めるように睨みつける。明らかに敵を見るような目だった。
「中身を見た?」
「見る前に返しました」
「そう」
僕の返事を聞くのと、便箋が広がっていないことを確認して真田はようやくいつもの調子に戻った。顔はまだ少し赤いが、落ち着いたようだった。
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