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さっきまでとのギャップについていけず立ち尽くしていた僕の前で、彼女は緩慢な動きで床に放置されていたカバンを肩に担ぐ。
「今日は帰る」
「え? あぁ、はい。分かりました。お疲れ様です」
急だったが気が削がれたのかもしれないと思い、決まった挨拶で送る。
「お疲れ」
心なしか疲れた返事で、彼女が部室を出ていく。そんな彼女の背中がいつも以上に小さく感じられて、ガチャンと閉まったドアから目を離したのはずいぶんと後のことだった。
それからしばらくの間、真田は部室に姿を見せなかった。部会への参加は各個人の自由とはいえ、彼女は名目上では部長であり続けざまに休むことは今までしなかった。
しかし学年は違えど同じ大学に通っている身だ。構内でばったりと出くわすということがあった。僕は声を掛けようと彼女に近づこうとしたが、彼女は僕を視認するや否や脱兎のごとく逃げ出してしまい、話をするどころか声すらかけさせてもらえなかった。逃げる時の彼女の顔は目に見えて慌てていて、あからさまに僕を避けているようだった。
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