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 なのに、こんな子供騙しの地図を見せることなんてないじゃないか。 「本物の地図を出せよ! こんなもので俺が騙されると思ったら大間違いだぞ!」 「何を言っとるんじゃ、お主は……」  じーさんは疲れ果てたような顔で地図をなぞる。 「正真正銘、ハル国のサクラ領、ミキ周辺じゃろ……」  一枚の桜の花びらのような形をした領地。こんな形をした土地はもしかしたらあるのかもしれないが、そんな地名は聞いたことがない。  じーさんは明らかに俺を馬鹿にしているのだ。  恐らくは本棚に入っていたあの解読不能の本たちも俺をからかうための小道具だったのだろう。なんて手の込んだ嫌がらせをするじーさんだ。友達いないんだろうな、きっと。  底意地の悪さがバレたあとでもまだ俺をおちょくろうとする性根の悪さに腹が立つ。頭が沸騰したようだった。 「ッそもそも! 現代日本に“なになに領”なんて言い方するところがあるわけ――」 「“ニホン”?」 「ない……だろ……。…………」  なんだ、今の怪しいイントネーション。明らかに「日本なんて国知りません」なんて言いぶりだ。元気そうに見えて実はこのじーさんはすでに痴呆なのだろうか。 「お主はいったいなんなんじゃ。さっきからよく意味のわからんことを言いおって。とち狂っとんのか」 「頭可笑しいのはじーさんのほうだろ」  じーさんは無言でぼこすかと俺を殴った。痛い。恐らくじーさんの孫ほどであろう俺になんて仕打ちだ。慈愛というものはないのだろうか。もし俺とじーさんの孫が同級生だったらどうするつもりなのだろう。多分違うし、そうだったとしてもどうもしないだろうけど。
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