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空を見ようと、すぐ目の前に森を抜ける道があったので進んでみる。
……雲ひとつさえも、遮るものなど全くない青い空。空に電線がない時点でわかりきっていたことだが、辺りには電柱のひとつも見当たらない。
どうやら此処は俺にとって未開拓の地であるが、人類にとっても未開拓の地であったらしい。
どうしたものかと視線を前方に戻すと、小屋らしきものがあるのを見つけた。
「おお! 誰か住んでるかも」
これで電話を貸してくれるような優しい人だったら嬉しい。そうでなくとも此処が何処かぐらいは聞き出してやる。
喜び勇んで小屋に近付いていく。すると横目に立派な野菜畑が目に入った。
うええ、トマトが生ってる。俺、トマトが一番嫌いなんだよな。あの“ぶちゅう”って潰れる感じが何か虫の卵みたいで凄く気持ち悪いんだ。いや、トマトは今そこまで重要じゃないんだった。
また小屋に目線を戻す。丸太を積み重ねて造られたような小屋は、小振りながらも雨嵐にも耐えられそうなほど頑丈に見えた。年季の入った小屋だ。築何年だろ。どうでも良いけど。
これまた木で出来たドアをがんがん叩く。暫く呼び掛けていないようだったら、邪魔かもしれないけど此処で待たせてもらおう。
「ごめんくださ――……いッ!?」
急にドアが内側に引かれ、俺の拳は空振った。言っておくがドアを殴り付けていたわけではない。ちゃんと叩いていた。
空振りした勢いのまま、俺の身体はつんのめる。ただ、それは倒れてしまうほどの勢いではなかったのに、ドアを開けたその主は俺の腕を掴み、わざわざ引き倒してくれやがった。
背中の上にどすんと重い何かが乗り、首筋には硬質で冷たい感触のものがあてられる。
「小僧、儂になんの用じゃ」
嗄(しわが)れた声。儂という一人称からも俺の上に乗っている男は恐らく老人だろう。しかし見える日焼けした腕は驚くほど逞しく、ドアから入る光が床に写し出す影も大きい。
それにしても一人称が“儂”で語尾が“じゃ”の老人って本当にいるのか。珍しいものを見たような気持ちになる。
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