きゅうり

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「此処って何処?」 「……サクラ領じゃ」 「さくら、りょう? 佐倉リョウ?」  オウム返しに言うと「うむ」とじーさんは――見えないけど恐らく――頷いた。なんで今いきなり名乗られたんだろう。お話をするにもまずは自己紹介からということだろうか。礼儀に五月蝿そうなじーさんだ。段々背中が痛くなってきた。 「俺、じーさんの名前訊いてるわけじゃないよ。えーっと、リョウじーさん?」 「誰がいつそう名乗った! 儂はセプテンブリオスじゃ!」 「へー、俺、山田太郎。それで此処は、――」 「サクラ領だと言っとろうが! 貴様、舐めとんのか!」  じーさんは俺の頭を鷲掴み(アイアンクロー!)、怒鳴った。耳がきんきんする。  舐めてない、舐めてない。じーさんぺろぺろしたって美味しそうじゃないし楽しくない。  必死にもがくとその心がじーさんにも伝わったのかとりあえず頭を放してくれた。ついでに背中からも降りてもらえるとありがたい。  それにしても“サクラリョウ”というのはいったい何処の地名だろうか。少なくとも、俺の家の周辺では聞いたことはない。もしや俺は県外にまで来てしまったのか?  ……まさかな。 「……お主、儂の野菜を盗みに来たわけではないな?」  な、な、なんて失敬な爺だ! じーさんはいかにも疑り深そうな眼差しで俺を見ているが、いまの言葉はいくらなんでも聞き捨てならないぞ。俺は不名誉な疑いを晴らすべく口を開いた。 「野菜なんて不味いもの、わざわざ盗みに来るわけないだろ!」 「なんじゃと貴様! 少し其処で待っとれ!」  何故か怒り狂ったじーさんは俺の背中から降りるとすぐに野菜畑へと走り出して行った。痛む背中を擦ろうとも身体が固くて、良いところに手が届かない。くそ、くそっ。これからは風呂上がりの柔軟体操を日課にしよう。  後ろを振り向くとじーさんの姿はすでに見えない。パワフルなじーさんだ。略してパワ爺と名付けよう。なんだかはじけてそうだ。  特にすることもなく手持ち無沙汰なので部屋の中を観察する。
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