きゅうり

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 細長い木の板がいくつも敷き詰められた床。所謂フローリング。入り口から見て右側にはキッチン台があった。自炊してるのだろうか。見上げたじーさんだ。真正面には赤い絨毯が敷かれていて、その上にダイニングテーブルがある。壁に寄り添うようにして置かれた棚などもある。  本棚を見つけた俺は、何か暇潰しになるものがないかと駆け寄った。エロ本とかあったら一番折り目があるところを開いてテーブルの上に置いてやろう。気分はお母さんだ。  靴を脱ごうとして気付いたが俺は靴を履いていなかった。柔らかい地面の上だったからまだ良かったが、河川敷のような石がごろごろあるところだったら恐ろしいことになっていたと思う。  ちょっぴりひやひやしつつ、適当な本を手に取り、これまた適当にページを開く。 「……んん?」  字が、読めない。  いきなり俺が馬鹿になってしまったのではない。字が俺の知らないものになっているのだ。  アラビア語だかなんだかのような不思議な形。みみずがのたくったような昔の日本の書体にも近いかもしれない。子供が適当に模様や線を書き殴ったような、そんな文字だ。  表紙や裏表紙もやはり同じ文字で埋め尽くされている。知っている文字が何も、数字すら見当たらなかった。  全く内容が理解出来ない。時々ある野菜の挿し絵でこの本が野菜に関係のある本だとわかる程度だ。どんだけ野菜が好きなんだろう、あのじーさんは。ベジタリアンなじーさんだ。  嗜好は理解出来ないが昨今には草食系男子なるものがいるので草食系翁(おきな)がいても良いのではないかと思う。草食系翁。貧弱そうだ。さっきのじーさんはそうは見えなかったのだが。 「小僧! 何しとるっ!」  後ろから怒声が浴びせられる。俺は振り返りもせず本棚を荒し続けた。 「エロ本捜してる!」 「ないわそんなもん!」  後ろから頭をすぱんと引っ叩かれた。そう時間は経っていないのにじーさんはもう戻ってきたらしい。小屋から畑までそれなりに距離があったように見えたのだが。なんにせよ、これ以上の家捜しは出来ないだろう。仕方ない。叩かれた頭を痛くもないのに大げさに押さえつつ振り返る。胸板が目に入った。あれ、でかっ。
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