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「ほれ、」
上からきゅうりが降りてくる。視線を上げて、ようやく目が合った。
日々の畑仕事のためか健康的よりも過ぎた色に焼けた肌。皺のある彫りの深い外国人顔。老いて尚衰えることを知らぬかのような筋肉隆々の肉体。そして今更ながら背がでかい。男子高校生の標準かそれ以上の身長を持つ俺が見上げねばならないほど、じーさんはでかかった。
じーさんは外国の人なのか。ならさっきの本の説明もつく。あれは多分じーさんの母国の本だ。
「儂の自慢の野菜じゃ。食え」
取れ立ての野菜を差し出されて反射的に受け取る。燦々とした太陽の恵みを存分に享受したのであろうそのきゅうりは、俺が知っているのよりも少しだけ大きかった。ただ俺は生粋の野菜嫌いのため、サイズが大きくなったところで何も嬉しくはない。俺が好きな野菜は揚げたじゃがいもだけだ。
「えー……、きゅうりって水っぽくて味しないじゃん。せめてマヨネーズとか味噌とかないのかよー」
言ってから少しだけ後悔した。こういうじーさんって「野菜は生で食うのが一番美味い!」とか思ってそうだから調味料をつけて食べるなんて言語道断と言わんばかりに怒り出すだろう。
「儂の野菜は何よりも美味いんじゃ!」思った通り拳骨を食らう。でも、不味いものは不味い。反論しようとする俺を尻目にじーさんは不思議そうに顔をしかめた。
「……“まよねえず”? “みそ”? なんじゃ、それは」
「……じーさん、外国人っぽいから味噌は知らなくてもわかるけど、マヨネーズも知らないの? 世代の差かな」
「儂は生まれも育ちもこの国じゃ」
そんなことを言われても日本人でこの顔立ちは有り得ない。ということはじーさんは日本生まれの日本育ちではあるが、じーさんの両親は外国人だったということだろうか。そういうことならこの流暢な日本語にも頷ける。
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