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……いや、それでもマヨネーズと味噌を知らないのは可笑しいな。
「わけのわからんことを言っとらんでさっさと食わんか!」
「わけのわからないことを言ってるのはじーさんのほうだろ」
「儂は誤魔化されんぞ!」なんて盛大に勘違いをしている――確かに食べたくはないけど――じーさんを横目に、俺はきゅうりを一口歯で欠いた。
「――あれっ?」
目を見開いた俺にじーさんが自慢気な顔をしている。だけど、俺はそんなじーさんを茶化すことも出来ないほど驚いていた。
たれをつけているわけでもないのに、食べられる。青臭くなくて、ほんのり甘みがあって、水っぽいというより瑞々しいという表現が合っている。
なにこれ。
「どうじゃ? 儂の作った野菜は」
「うまい……」
思わずそう漏らす。「そうじゃろう、そうじゃろう」じーさんが誇らしげに頷く。よもやこの俺が野菜を食べてうまいと感じる日が来ようとは……。歴史的瞬間だ。そんな貴重な場面に立ち会ったじーさんにはこのきゅうりをもう一本俺に食わせる義務を与えたい。
きゅうりをぽきぽきしゃくしゃくと食べながら、俺はじーさんに訊ねた。
「これ、有機野菜とかってやつ?」
「はあ? なんじゃ、そら」
じーさんは意外とものを知らなかった。
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