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Ⅰ.踊るうるつやアップルパイ。或いはわたしは如何にして、体重増加に至ったのか。
(ドロシー×アストリドさん)
その日、わたしはアルカナ帝国で開催されるマスカレードに参加していた。強制参加――というのもあるが、それとは別にもう一つ……甘いものを食べるためだ。
《――うーん、あんまり食べ過ぎると太っちゃうぜドロシーちゃん――》
ふと、影からそんな声がしたような気がするがあえて無視して、わたしは新たにアップルパイへと手を伸ばそうと――
「あまり食べ過ぎは良くないと思うがな、ドロシー」
「その声は……アストリドかしら。
……見違えるわね、まるでどこかの貴族みたいよ」
声が聞こえて振り返ると、そこにいたのは赤い髪を揺らす青年――わたしと同じ、アルカナ帝国に所属する大将、アストリド・コルネリウスだった。
「話を逸らすな。貴公が甘党だということは知っているが、食べ過ぎは体に毒だぞ」
「そういうあなただって、さっきマカロン食べて幸せそうな顔してたじゃない。あれはどうなのよ」
「む……見ていたのか……。だが、それとこれとは話が別だ、だいたい貴公は……」
「あーはいはい分かったわよ、お説教なら後でちゃんと聴くから、今はこのうるつやアップルパイを食べてなさい」
言いながらわたしは、今まさに喋ろうとしていたアストリドの口に、咄嗟に取ったアップルパイを押し込む。
アストリドもわたしと同じ甘党だ、きっとこのうるつやなアップルパイを食べれば、なんとかなれだろう。
というかなんとかなって欲しい。
わたしだってうるつやなアップルパイを食べたかったのだから。
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