第6話

3/126

1858人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
「じゃ、そういう事だから宜しく!」 営業部長がそう言い残し戻って行った 佑も頭を軽く下げて戻って行くと思った矢先、私の横でピタッと止まりジッと見つめられた…… さっきまでの人当たりの良さそうな笑顔とは違い、射抜く様な鋭い視線に一瞬周りに居た人全員がゴクリと息を飲むのが伝わってくる 佑の視線は私を頭のてっぺんから足の爪先までゆっくり見下ろしていき、また上にゆっくり視線を戻し、私の視線を捕らえた 何が起こってるのかわからない…… でも、佑から視線を逸らせない…… 魔法にでもかかっているかの様にその場に立ちすくんでいたら…… 「上條さん、うちの佐伯がどうかしましたか?」 その人の声で、たった一言でパッと魔法が解けた…… 課長・・・ 私は佑から視線を外し背後にいる課長に視線を送る 自分のデスクに寄りかかり、腕を組んだ課長が冷たい視線を佑に向けていた 私の視線に気付き、ほんの一瞬だけ目尻を下げ口元をゆるめたが、すぐにまた鋭い視線で佑を見つめた 「フッ……すみません 佐伯さんが以前とは雰囲気がだいぶ違っていたので、ちょっと驚いたと言うか……実は正直見惚れてしまいました ジロジロ見てしまってごめんね」 そう言って背の高い佑は少し屈んでニコッと笑い私の頭をひと撫でして戻って行った 誰もがその光景を息を潜めて見つめる中、 「チッ……」 課長の舌打ちの音がデザイン課のオフィス全体に響き渡った 私は心臓の音がみんなに聞こえてしまうのではないか、って位にうるさく響いている 「大丈夫か?」 いつの間にか隣に来ていた課長が私の頭をポンポンと叩き心配そうに覗き込む いつもと変わらない優しい声で語りかけられ、なんだかわからないけど無性に泣きたくなった……
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1858人が本棚に入れています
本棚に追加