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誘拐
メットを被り、憧れのAPRILIAに跨がって、本当であれば有頂天になっているだろう状況のはずなのに。
私はふてくされた顔で、流れる海岸線の景色を眺めていた。
今、私は撮影場所まで移動中なんだけれど。
その経緯を思い出して、またムカムカしてくる。
目の前でバイクを操る京介君の腰を、私が渾身の力で掴んでいなければならないこの状況が気にくわない。もうすでに、腕が限界を訴えてプルプル震え出していた。
絶対明日は筋肉痛に違いないと確信しながら、私はなんで京介君まで撮影に同行することになったのかを、ふつふつとした怒りの中、思い返した。
『……撮影? 今から?』
撮影のため私を迎えに来た鈴木さんに、京介君はあからさまに眉を顰めた。
どうやら、今から私が撮影所に行くということに腹を立てているようだった。
『え、ええ、そうなんです。美里ちゃんの写真集を撮影した金城さんが指名されてて……あっ、そうだ、馬淵さんも行ってみますか?』
態度を一変させた京介君の機嫌を伺うようにしながら、鈴木さんは上目遣いで誘うんだけど。
京介君の冷たい視線は変わらない。
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