せんそうとさくら

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 それらか数日をその家で過ごすと、寺から住職がやってきて「林さんに迷惑の無いように」とだけ言って帰っていった。林さんとはもちろん植木職人の男性のことだ。  連れ戻されると思っていた山本は、住職の様子にあっけにとられ、それから声を上げて笑い出した。  自分の心配していたことの、なんと小さいことか。 「林さん、ありがとな」 「君からそんな言葉が出るなんて、驚きです」  掛け値なしの感謝だ。それだけ恩義を感じていたのだろう。 「それでは、今日も行きますか」 「おう!」  林の言葉に、元気よく返事をする。  それから二人が向かったのは、うっそうとした山中において、ある程度の間引きがなされた広々とした空間だ。そこが林の仕事場で、山本はその様子を見学するつもりだった。  いつもならそうしていたが、今日ばかりは勝手が違うらしい。 「山本君もやってみますか?」 「え、いいの?」  林から小さな枝のようなものを手渡され、興奮する山本。 「ここの切れ込みに、その穂木を入れてください」 「こ、こうか?」 「そうそう。山本君は筋がいい」 「そっか。筋がいいのか」  やっているのは、接ぎ木という技術。今回は、切り株にバラの枝を差し込んでいる。バラのとげは特別に落としてあった。  バラというのは性質が強く、接ぎ木の中でも初心者向けの品種でもある。山本のために、特別用意されたのだ。 「なあ林さん。このちっこい枝はなんていうんだ?」 「それはバラです。いずれは赤い花を咲かせることでしょう」 「ならこの切り株は?バラの大木なんて、聞いたことないぞ」 「山本君は物知りですね。そうです、これはもともと銀杏の木でした」  山本には、どうして銀杏の木を切ってしまったのかが、理解できない。バラの花と同じように、黄色く染まった銀杏も美しいのに。 「なんだか、バラが銀杏をふみ台にしるみたいだ……」 「この銀杏の切り株のことを、台木と呼びます。そして、バラのことは穂木と呼びます。どちらも接ぎ木をする上では欠かせないものです。……古いものから、新しいものが育っていく。そしてそれもまた古くなって、また新しいものの肥やしとなる。そうやって、この世界は回っているのですよ」  林のいうことは、やはり半分も理解できなかった。  しかし、自分の考えが浅はかだったような気はして、少しだけ落ち込んだ。
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