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墓地に一人の少年が立っている。冷たい雨がしたたかに少年を叩く。
もはや下着までもが水を吸い込み、肌はふやけていた。どれほどの時間立ち尽くしていたのだろう。
涙を流していたはずなのだが、雨のせいで少年は自分が今泣いているのかすらわからない。
恐らく、泣いているのだろう。
父は生まれた時には既に亡く、唯一無二の拠り所の母をも失った。
頼れる身内などもういない。世界の終わりだ。
母譲りの美しい黒髪はこの地の人間たちからすれば呪いであり、
そのせいで友人など一人もいない。少年の髪の色はきっと、憎悪の色で染まっている。
少年は瞳に世界の終わりを宿していた。
子供が唯一の拠り所を失ったのだから、仕方の無いことだろう。
「ガキがこんな所で、何してるんだ」
後ろから唐突に声をかけられ、少年は驚いて振り向いた。
彼の背後には一人の男がいた。男の声には墓場には不釣り合いな陽気さがあった。
黒い外套、黒い靴、そして自分と同じ黒い髪。瞳まで黒い。
そして額と右目を包帯で隠している。
「泣いてる」
少年は雨音にかき消されそうなほどの小声で応えた。
「なるほど、泣いてるのか。親でも死んだか」
男は墓石を見た。彼の無粋な言葉に少年は反応出来ず沈黙する。
「肯定、と受け取っていいのか。もし意志があるのなら俺と来い。
自立出来るようにしてやる。さあ、どうする」
にやり、と男は嗤った。まるで悪魔の囁きだ。
そして少年に手を差し伸べる。
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