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差し伸べられた手は希望かあるいは絶望かわからない。けれど――
少年は男の手を取った。血が通っているのかわからないほど冷たい。
目の前の男は本当に悪魔なのではないか、少年はそう考えてしまった。
「俺はアウイン・アーベントシュテルン。しがない魔術師さ。
お前の名前はなんだ?」
「フリツ。フリツ・トア」
悪魔との契約書に署名するかのような気持ちでフリツは名乗った。
「では今この瞬間からお前はフリツ・アーベントシュテルンだ。
古い自分を捨てて、新しい自分へ生まれ変わる。
そう、蛇が脱皮をするようにな」
アウインは陽気にそういった。墓場にはとても不釣り合いな調子だ。
アウインが語っている事を、フリツは理解出来なかった。
――朝。目覚ましのアラームでフリツ・アーベントシュテルンは目を覚ました。
「また昔の夢か」
誰にいうでも無く、フリツは呟いた。
アウインの手を取った後五年間、フリツは彼からみっちりと魔術を教えこまれた。
そしてある日、アウインは消えていた。一通の手紙を残して。
手紙には『ギルドに推薦状出しておいたから、後は自分でどうにかしろ』とだけ記されていた。
その後魔術師ギルドに入隊し更に五年。フリツ・アーベントシュテルン、十五歳。
若くして国家資格である大魔術師の称号と二つ名を持っている。
フリツは起き上がり、時間を確認する。あと三十分で上司との約束の時間だ。
フリツは寝間着を脱ぎ捨て、ギルドの制服に着替えた。
そして顔を洗い、簡単に朝食をとり、上司の所へと向かった。
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