【雪月夜、鐘の音に誘われ悪を見る】

7/29
前へ
/103ページ
次へ
「――――はぁ~…」  なんか、気分が暗くなった。  朝に見たアレの影響もあるんだろう。今日は色々と、余計な事を考えてしまうようだ。 「誠司~。そろそろ時間じゃないのか?」 「ん? あぁそうだね。これ買うから、先出てて」  わかったと頷き、オレは外へ出た。辺りはもうすっかり日も暮れ、寒さがより一層増している。はく息は、まさに雪のような白さをしていた。 「待たせたね。それじゃあ帰るとしましょうか」 「そうだな。帰り、ちょうどいいのあるのか?」 「あぁ。ピッタシのがあるよ」  いいのがあるのか。それならオレも、駅に着いたらすぐに帰るか。  横断歩道まで行くと、信号が赤に変わった。立ち止まると――何気なく、歩道の先に目をやった。  学生やサラリーマン。私服を着た人など、様々な装いの人が立ってる。時間的に、この人達も帰るところなんだろうなぁ、なんて考えながら見ていると、 「――――?」  違和感を、覚えた。歩道の先に見える人の中。そこに一人、うな垂れたまま立っている男の人がいる。  っ――――悪寒が、走った。  ただ、その人を見ているだけなのに……酷く、気分が悪くなる。次第に視界がぼやけ、霧がかかったみたいに、目の前の景色が見えづらくなっていく。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加