第1章

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翌朝、 気持ちよく目がさめた。 体は大丈夫だ。 週末、ゆっくり休めば、 来週から普通に 出勤できるだろう。 冷静に考えると、あの時、 「歌えません」と言えば よかった、 でも言えなかった。 それはお酒を飲めない 人が宴会で、 「飲めません」 と上司にいう プレッシャーに似ている。 さて、これからどうしよう。 歌わない人がいると 盛り上がっている 雰囲気を壊し、 周りをしらけさせる。 それはよくないと思う。 下手でも歌っちゃえばいい という人もいるけど、 あまりに私は下手で、 この下手さ加減を 人前にさらしたく ないんです。 笑われたくない。 音痴って知られたく ないんです。 一つ、方法がある。 それは参加しないこと。 カラオケの席にはいかないこと。 歌は嫌いですって、 居直ればいいことだ。 それをしないわけは、 ただ一つ。 私は歌が誰よりも大好き。 歌番組は全部見ているし、 ラジオでも聴く。 昭和歌謡から、GS、 フォーク、 ニューミュージック、 ロック、 バンドブーム。 Jーpopは 洋楽の影響を 受けながらも 独自の音楽を作り上げて、 今はむしろ世界中に 発信していることを 知っている。 テゴマスなんて デビューはスエーデン。 エルビスプレスリーから ビートルズ、 ローリングストーンズも イーグルスも ジミーヘンドリクスも、 愛してやまない、 ミュージシャンたち。 ピアノだって弾けるし、 ギターだって。 ギターはコードのいくつかが 弾けるだけだけど。 スマップのコンサートに だって行く。 音楽の成績は いつも「5」だったし、 筆記試験は100点だった。 移調や転調、 イ短調とか変ロ長調の 違いだって詳しい。 ただ、哀しいかな 歌えないんです。
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