第1章

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「わかんないよ、  生まれた時から  うまいうまいって  言われてるし  自分じゃ    わかんないんだ。    だから教えて  あげられないよ」 そうだよね。 声なんて 普通に出せて、 歌だって 普通に歌って 努力したんじゃ ないもんね。 そうして試験の日が来た。 4人ずつ、名前を呼ばれて 前に出て先生のピアノに 合わせて歌う。 二人ずつ、 高いメロディーと アルトの低い方に 分かれて、 両方、 すなわち高い方と 低い方を1回ずつ歌う。 なぜかその日は歌えた。 先生は 「うまいじゃない」 と褒めてくれた。 「一人で歌ってみる?」 そういわれて、 大月さんになったような 気分で一人で歌うと 今度は高い声が 全然でない。 「あらあら、  すごくうまい時と、  声が出ないときと、  差が大きいのね」 と先生は言った。 こんなことが 鮮明に記憶にのこっている。 声ってどこまでも 高く出るわけじゃないよね。 どうやって高い声を出すのかな。 わからないまま、 普通に成長し、 高校生になった。 制服コンテストで 一位になった 都立高校で、 その制服がうれしくて、 毎日が楽しくて 仕方なかった。 青春まっただ中。 校歌だっていい曲で 校庭の芝生で みんなで集まっては 一緒に よく歌った。 ハモリが自然に できる子がいて、 ハモると校歌が ヒット曲のように 美しく聞こえたりした。 男の子は学校に ギターを持ってきて 放課後、 自慢げに弾きながら 女子の前で 得意そうに 歌ったりしていた。 私は歌の大好きな 友だちがいっぱいできて、 音楽の授業で習った モーツアルトの曲なんかを、 放課後、集まっては みんなで歌った。 私はピアノが弾けたので、 伴奏の係りだった。 学園祭では バイオリンを弾くという クラスメートに伴奏を頼まれ、 舞台にあがったこともある。 そんな風に私はいつも 音楽に囲まれていた。 その頃、カラオケに 行くことは 学校で禁止。 家族でも 行くことはなかった。 短大を卒業し、社会人になって、 今の職場に入り、 そのころからだな、 カラオケに行く機会が 増えだしたのは。
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