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いつもいつも
そんなことを
考えながら、
歩いていた。
ある日、帰宅途中の
電車の窓外に
「カラオケ教室」の文字。
いつもあったはずなのに、
やけに大きく
浮き立ってみえた。
「どんな音痴もなおります」
って。
躊躇はしたが、
電話番号をスマホに入れた。
家に帰ってから思いきって
電話をかけた。
指導する歌は
すべて演歌だそうで、
期待外れに終わった。
どこもかしこも
カラオケ教室は
演歌だそうだ。
さて、どうしよう。
高校時代の親友に
相談したら、
知り合いの主婦が
新宿の音楽教室の受付で
アルバイトをしていると言う。
個人レッスンだけなので
演歌でなくても大丈夫、
どんな曲でも
指導してくれるらしいよ、
と言った。
悩んでいても仕方ない。
早速、電話で予約をとって、
紹介された音楽教室へ
行ってみた。
これを逃しては
私の未来はない。
繁華街の狭い
雑居ビルの中。
確かに有名なラジオ局の
「音楽教室」
の看板が出ていた。
でも居酒屋や得体のしれぬ、
いかがわしそうな看板もある。
大丈夫だろうか。
親友の知り合いの奥さんの
バイト先だからそうひどい
ところではないことを信じ、
小汚いエレベーターに乗って
3階に行った。
案内の矢印にそって
廊下を行くと、
「東西放送・音楽教室」
があった。
ドアを叩くと
「お待ちしてました」と
人なつこそうな女性が出てきた。
それが主婦の清水さんだった。
親友の紹介もあって、
親切に中を見学をさせてくれた。
ちょうど、誰かが
レッスンをしているところで、
教室の中には入れない。
防音の部屋だが、
かすかに女性の
歌声が聞こえる。
教室のドアの前の
狭いスペースに
テーブルがあって、
背広姿の男性が二人、
ヘッドホンで中の歌声を
聴いていた。
東西放送局の社員で、
清水さんによると、
彼らは上手な人を
見つけてはCDデビューを
させるのだそうだ。
有名にならなくても、
CDデビューができる満足。
そのためにかなり
高齢の人たちまで
練習に来ていると
清水さんは説明してくれた。
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