11人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
会席の9品目が終わり、水菓子の杏仁豆腐が運ばれて来た時には、薫もぎこちなさがずいぶん取れて、会話も弾んでいた。
水菓子を食べ終わると、長野は座卓越しに薫の手を取った。
「っつ!」「さっき言っていた【そういった意味】を教えるよ…」
薫は、長野の手に包まれた自分の手を見下ろした。彼に触れられていると、まともに頭が働かない。
重ねられた彼の右手から逃れるように体を引こうとした時、左手も添えられ、2人の視線が絡まる。
しっかり組み合わせた指から温もりが伝わり、体が熱くなっていく。
さらに彼は手を握ったまま、薫の指にキスをした。それから手を返し、手のひらにも唇を押し当てた。
「っつ!」甘美な疼きが薫の体を貫き、胸の先が硬くなる。薄紫のシルクのブラウス越しに彼に愛撫されたら、どんな感じがするのだろう?
切ない想いに体が震える…全身がこわばり、期待が高まって…・
薫は生々しいイメージを頭から追い出した。わたしはどうしてしまったの?
薫は、彼への想いに蓋(ふた)を被せたかった…仕事先の担当者というだけの関係…それが一番いいのよ…
どう応じていいのか?わからず薫は、落着かなかった。
長野のような男性にこんなふうに見つめられ、気持ちを整理できない。
誘惑に負けそうになるのを悟られないようにして、薫は言う。
「放して…」「嫌なの?」「…・・」
「君に逢った時から、こんなふうにしたかった…」
「これが僕の答えだよ…」黒っぽい瞳が、ささやくように見つめ返す。
今まで経験したことのないロマンスを、叶えてあげると。
長野は、今まで知り合った男性とは違う。危険な香りがする…
彼がとてもハンサムで、芸能人だから?
どちらにしても、わたしにはふさわしくない…
あまりにもかけ離れているわ!
【なぜ、彼はわたしを口説くような素振りを見せるのだろう?】
【まるで、わたしが魅力的な女性であるかのようにね…】
薫は小さく笑い、重ねられた手を静かに引き抜くと、両手で顔を覆ってしまった…。
それを見ていた長野は、彼女の傍に行き、思わず抱きしめる。
橙色に輝く灯りの下で、ふくよかな素肌に触れたい疼きを、今更隠せなかった。
最初のコメントを投稿しよう!