揺れる心

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会席の9品目が終わり、水菓子の杏仁豆腐が運ばれて来た時には、薫もぎこちなさがずいぶん取れて、会話も弾んでいた。 水菓子を食べ終わると、長野は座卓越しに薫の手を取った。 「っつ!」「さっき言っていた【そういった意味】を教えるよ…」 薫は、長野の手に包まれた自分の手を見下ろした。彼に触れられていると、まともに頭が働かない。 重ねられた彼の右手から逃れるように体を引こうとした時、左手も添えられ、2人の視線が絡まる。 しっかり組み合わせた指から温もりが伝わり、体が熱くなっていく。 さらに彼は手を握ったまま、薫の指にキスをした。それから手を返し、手のひらにも唇を押し当てた。 「っつ!」甘美な疼きが薫の体を貫き、胸の先が硬くなる。薄紫のシルクのブラウス越しに彼に愛撫されたら、どんな感じがするのだろう? 切ない想いに体が震える…全身がこわばり、期待が高まって…・ 薫は生々しいイメージを頭から追い出した。わたしはどうしてしまったの? 薫は、彼への想いに蓋(ふた)を被せたかった…仕事先の担当者というだけの関係…それが一番いいのよ… どう応じていいのか?わからず薫は、落着かなかった。 長野のような男性にこんなふうに見つめられ、気持ちを整理できない。 誘惑に負けそうになるのを悟られないようにして、薫は言う。 「放して…」「嫌なの?」「…・・」 「君に逢った時から、こんなふうにしたかった…」 「これが僕の答えだよ…」黒っぽい瞳が、ささやくように見つめ返す。 今まで経験したことのないロマンスを、叶えてあげると。 長野は、今まで知り合った男性とは違う。危険な香りがする… 彼がとてもハンサムで、芸能人だから? どちらにしても、わたしにはふさわしくない… あまりにもかけ離れているわ! 【なぜ、彼はわたしを口説くような素振りを見せるのだろう?】 【まるで、わたしが魅力的な女性であるかのようにね…】 薫は小さく笑い、重ねられた手を静かに引き抜くと、両手で顔を覆ってしまった…。 それを見ていた長野は、彼女の傍に行き、思わず抱きしめる。 橙色に輝く灯りの下で、ふくよかな素肌に触れたい疼きを、今更隠せなかった。
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