揺れる心

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―東京都内 雑誌撮影スタジオ― その日、長野は井ノ原と三宅と、夏に発売する雑誌のインタビューを受けていた。 インタビューの内容は、『恋愛について』。 長野は、この題で2人と同じようには、話せないなと思う。 昨日、【和菓子で季節を感じる】の特集のために、大手広告代理店での打ち合わせに行き、薫と逢ってから、とめどなく彼女の面影が、瞼に焼き付いてしまっていたからだ。 雑誌社担当スタッフ「今日は、長野さんと井ノ原さんと三宅さんを、ゲストに迎えて、恋愛についてお話を聞いてみたいと思います。」 「3人さん、よろしくお願いします」 長野・井ノ原・三宅「よろしくお願いします。」 「恋愛と一口に言っても、様々な形がありますが、一番印象に残るきっかけは、何でしょうか?」 「僕は、笑顔ですかね…」「女性の微笑が好きなので、ニコッとされると、僕も釣られます…」井ノ原が笑いを誘うように、答える。 「僕は、女性の髪の匂いですね…」「洗い立ての髪の香りにゾクゾクするんです…」三宅は、何かを思い出したように遠い眼をする。 井ノ原・三宅に比べて、あまり話さない僕に、担当者は驚いたのか、「長野さん、このテーマ答えるのが難しいですか?」と問いかけた。 「ええ、難しいです…」「強いて言うなら、僕は女性の仕草に、目が行きます。」「髪を、細い指で梳いたりする動きが、 艶っぽくて好きですね…」 僕の答えに、井ノ原と三宅の顔色が変わった。まさか、こんな答え方をするとは、思わなかったようだ。 この答えに、雑誌の担当者も驚いたようで、「長野さん、何か雰囲気変わりましたね…」と、インタビュー後の打ち合わせの時に、初めに言われた。 「そうですか?僕自身は、変わりはないですよ…」と素知らぬ顔で通す。 「今までより、セクシーですもの…」 「それ褒め言葉?」 「ええ…」「今回のインタビューは、『大人の恋愛』がテーマなので、長野さんの答えで、思い当たる女性たちから、反響が来るでしょう!」 「年齢を重ねて、経験が増した女性たちの反応が、楽しみですね…」 僕がそう返すと、担当者は、明らかに変わったなという表情を見せた。 雑誌担当者と打ち合わせが済み、今日の仕事が終わったな…とホッと息を吐いた時、控え室にいた井ノ原と三宅に、話かけられた。
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