揺れる心

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「お疲れさま…」「お疲れさま…」 「長野くん、この頃何かあったの?」「えっ!」 「いや…いつもと変わらないけど…」2人の問いかけに、愛想笑いを浮かべる。 「今日のインタビュー、まさか長野くんが、謎かけみたいに冷めた言い方を、するなんて思わなかったよ!」井ノ原が、三宅に同意を求めるように、話を続ける。 「そうかな…『大人の恋愛』ってテーマだから、これくらい言ってもおかしくない…と思うな。」 「やっぱり、長野くん何かあったでしょ?」三宅が、もう一度訊ねる。 その時、僕のスマホに着信があった。 「ごめん、電話だ…」画面を見ると、薫からだった。 それから、2人を控え室に残して、廊下に出て来た。 今まで素知らぬふりで逃げていた僕が、急に笑顔を見せたので、井ノ原と三宅は、何か感づいたらしい。 「あの電話の相手、もしかして長野くんが変わった原因かな?」 「今までの相手と違うな…声が上擦っていないか?」 「うん!そう聞こえる…」「長野くんの相手、見てみたいね。」 2人が、そう話しているとは知らず、僕は薫と待ち合わせの時間を、決める。 「これから会社出るところです。今、電話したら不味かったですか?」「いや、いいよ。」「僕も今、仕事が終わったところだから…」 「お疲れのところ、すみません。」薫が、申し訳なさそうな声を出す。 「君の会社の近くまで、迎えに行くよ…」「いいんですか?」 「いいよ!後15分ぐらいで着くと思うから、また連絡するよ。」 「よろしくお願いします。」弾むような声が響いて来て、僕は今日の仕事の疲れが、飛んでいく気がしていた。 控え室に戻ると、井ノ原と三宅に「先に帰るよ…お疲れさま…」と告げて、雑誌撮影スタジオの地下駐車場に急ぐ。 それから、ライトパープルのプリウスのエンジンをかけて、淡く春の夕闇が漂う街中に出ていった。
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