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桃華を起点にしゃがみこんでいた二人は、かなりの至近距離である。
「チ……チ…チューだと!」
「このまま押し倒してやろうか?」
真っ赤な顔で動揺するクジナに、辰也がクールに言い放った。
「バ…バカ者!お前は私の話を聞いてなかったのか!
私には約束を交わした男がいるのだ。お前のチューなど要らぬ!!
お前もとっとと帰れ!」
うろたえ、取り乱すクジナに、立ち上がった辰也が手を差し伸べた。
「ずっと一人ぼっちだったんだろ。
……例え一時でも、もうお前を一人にはしたく無いんだ。最後まで俺が見送ってやるよ」
「フン……流石、スケコマシなだけあるな。ツボを心得ておる」
そう言って辰也の手を取り、クジナも立ち上がった。
「これから先は私にもどうなるかわからない。あの瓢箪に、お前も吸い込まれるかも知れないのだぞ」
「その時はその時さ」
あっけらかんと辰也が答えた。
そんな辰也をクジナは上目使いに見つめた。
「ギリギリまで。……一緒にいてくれ」
少しだけ甘えるようにクジナは言うと、辰也の手を握りしめた。
「で、これから先、どうすれば良いんだ?」
「この道を真っ直ぐに進めば、瓢箪の入り口に辿り着く」
「道なんてあるのか?暗くて何も見えねえよ」
「フン……まだまだ小僧だな。
道など見えずとも構わん。歩いた所が道なのだ。人生とはそう言う物よ」
カラ ン… コロン……
カラン… コロン……
毅然とした面持ちで、正面を見据えて歩む、クジナの手を取り、辰也が恭しくエスコートをする。
不意に辰也が、空いた方の腕を頭上に上げた。
『パチン』
その腕で指を鳴らした。
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