桜流

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「おお………」 クジナが感嘆の声を洩らした。 降りしきる真っ白な雪が、淡いピンクに染まっていた。 ほのかな香りを振り撒きながら、暗闇を桜の花弁がフワフワと舞い踊る。 「これは桜なのか?」 嬉しそうに辺りを見渡すクジナに、辰也がニヤリと笑い答えた。 「門出に桜は付き物だろ」 もう一度『パチン』指を鳴らした。  『パリッ!』 硝子を踏み締めたような音と共に、暗闇のクジナの世界の至る所に亀裂が走った。 「夜桜も良いが、桜には青空がお似合いだ」 『パチン』 辰也が再度指を鳴らすと、硝子が割れるような大音響と共に、暗闇その物が崩壊した。 砕け散った暗闇の破片は、色を失い、桜色に染まってゆく。 「おお!……こ…これは………」 クジナが再び感嘆の声を上げた。 「お前は……魔法使いか!?」 眩しいくらいの快晴の青空に、形の良い入道雲。 二人が歩むべき道の両端は、満開の桜並木が立ち並び、地面はタンポポの花で埋め尽くされていた。 「桃が雪を降らせたんだ。俺はこれぐらいやらなきゃ帳尻が合わないだろ」 平然と辰也が答えた。 クジナは余程感動したらしく、立ち止まり泣き出した。 子供が声を上げて泣くような号泣だった。 「ったく……そんな風に泣いたら、妖怪も形無しだな」 呆れたように辰也が言う。 「うるさい! お前………   やることがカッコ良すぎだーっ!!」 クジナが泣き叫んだ。
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