桜流

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  …永いキスを交わした。 大地を覆っていた、黄色のタンポポの花が、いつの間にか銀色の綿帽子に替わっていた。 桜の花弁が舞う優しい風に、大地の綿帽子が一斉に宙に浮かんだ。 二人は薄紅色の桜の花弁と、銀色に輝く綿帽子に包まれた。 「また巡り逢おうな」 静かに微笑みながら辰也が言った。 「大丈夫か?」 真剣な表情でクジナが問う。 「何が?」 「お前の所業は鬼畜に等しい。 これ以上、女子(おなご)をたぶらかすと鬼畜道に堕ちるぞ。同じ世界に生まれる事が叶わないではないか!」 「俺の何処が鬼畜なんだ」 辰也が苦笑する。 「待つ方の身にもなれ!  お前は金輪際、女子禁止だっ!!」 辰也を怒鳴り付けて、小声で呟いた。 「また……救ってくれたな………」 「はぁ?悪い。聞こえなかった」 「一人言だ。  ……仕方ない。美加だけだ。 お前は子供の頃から、美加を思っているのだろ?美加は私も好きだし、ライバルとして不足無い。  美加だけは惚れても構わぬ。  美加だけは認めてやる! 禁欲のあまり、男に走られたらおぞましいからな」 高笑いを上げるクジナの姿が少しずつボヤけだした。同時に辰也の姿も薄れ出す。 「クジナ。知ってるか? 春に花を咲かせたタンポポは、綿毛になって種を飛ばすだろ? 暑い時期に飛んだ綿毛の種は、秋まで休眠するんだ。 ………次の季節まで   ゆっくり、おやすみ………」 微かに見える、蜃気楼のように薄れたクジナが、微笑みを浮かべた。 「この世界での私は季節外れの種みたいな物だったな………  辰也。 ………ありがとう。 」
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