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「辰兄!起きてくれ!」
隆円に肩を揺り起こされて辰也は目を覚ました。
店内は辰也と隆円だけで、美加と桃華の姿が見えない。
「二人は?」
「もう帰った」
「そうか……夢を見ていた」
静かに呟き、隆円が仏頂面をしている事に気が付いた。
「どうした?」
「邪魔が入って、美加ネエの旦那に逃げられた」
「邪魔?」
「美加ネエの無意識が邪魔をして、旦那を逃がしてしまったんだ。………スマン」
「夫婦だったんだ。そんな事もあるだろ。護符は有効なんだろうな?」
「ああ。大丈夫だ」
「じゃあ問題無しだ」
ボンヤリとした頭で辰也が答えた。
(……クジナの奴、最後に俺を名前で呼びやがった。
……全部、夢だったのか?)
胸に切なさが残る。
(……ん!?)
辰也は何故か握りしめていた左手の手のひらを開いた。
手のひらにはハート形をした、桜の花弁が一枚。
桜の花弁は雪が溶けるように、辰也の目の前で水滴に変わった。
そして水滴は辰也の手のひらに、吸い込まれるように消えた。
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