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「ああぁーっ!もう………」 美加が逆ギレしたように、声を張り上げかけたが、途中で途切れた言葉が、ため息に変わった。 「ねえ、辰也。 ……ウチらは今年でもう三十六歳だぞ。四捨五入したら四十。辰也はどうするつもりなの?」 「どうするって?」 「結婚。誰かイイ人いないの?一度は結婚した方が良いよ」 「結婚か……俺は………」 言い淀み、矛先を変えた。 「美加は後家を通すつもりか?そろそろ再婚を考えても良いんじゃないのか?早くしないと売れなくなるぞ」 「私は物じゃ無いって…… それに、質問に質問を返さないでよ」 静かな声色だが、黙秘権を認めない物言いで回答を迫る。 観念したように辰也が答えた。 「……約束した女がいる」 数秒間の沈黙の中で、辰也のグラスの氷が『カチャリ』と鳴った。 「あはは……だよね!辰也がフリーなワケは無いよな。ゴメン!余計なお世話だった……」 空虚な響きの笑い声と共に美加が言った。 辰也が慌てて口を開きかけたが、美加が『聞きたくない』とでも言うようにそれを拒んだ。 辰也に話すタイミングを与える事を恐れるかのように、加速して話し出したのである。 空回りしたように猛烈な勢いで話す美加と、押し黙る辰也。辰也は話すタイミングを完全に失ってしまっていた。 「私さあー もともと、旦那とは上手く行ってなかったんだ。遊び人の、どうしようもない旦那で、離婚寸前だったけど、死ねば仏って言うじゃん。 旦那が死んじゃったら、アイツのダメな所、全部忘れてさ……思い出すのは楽しかった事ばかり。 この町に帰って来るまでは、アイツとの思い出にすがって生きて来た。 ………大した思い出なんて無いのに……」 グラスのウイスキーを一気に飲み干し、喉を潤すと、注ぎながら話を続けた。
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