5/7
前へ
/39ページ
次へ
「でも…… 死んじゃったら、終わりなんだ…… 思い出だけじゃツラい。 思い出だけで生きて行ける程、私強く無い。 私だって、人並みに寂しくなる時もある。 って言うか寂しい。寂しくて寂しくて寂しくて切ないよ……」 涙ぐみ、言葉を止めた美加に、辰也が再び口を開きかけると、美加が慌てたように話を続けた。 「私みたいなイイ女が、このまま後家さんで終わってたまるか。私だって幸せになりたぁーい!! な、辰也もそう思うだろ?」 「もちろん」 「ぜーったいにー 幸せになるぞーー!!」 美加が笑いながら叫んだが、空元気なのか、酔っ払いなのか、判別出来ない。 「私さ、結構あちこちで口説かれるんだよ」 「そうなのか?」 辰也の片方の眉毛がピクリと動いた。 「今も会社で課長に口説かれてる」 得意気に美加が答えた。 「課長ってどんな奴?」 「東京の本社から来た役員候補。同じ歳の奴だよ」 辰也が不機嫌そうに、ひきつった笑みを浮かべたが、美加は気が付かなかった。 「あっ!そうだ! …私、旦那で失敗してるから、男見る目に自信がないんだ。今度、ここに連れて来るから、辰也の意見を聞かせてよ」 「はあ!?俺がか?」 美加が当たり前のように頷く。 「美加。お前がバカなのは知ってるけど、おバカと記憶力は別問題だ。  お前。どんだけ記憶力悪いんだ!!」 辰也は先程から言いたかった話の一端を口にした。 辰也が言った『約束した女』とは美加の事であり、約束とは子供の頃に、美加を嫁に貰うと言った事を指していたのだが、完全にタイミングを外した今となっては、美加に辰也の言葉は届かない。 「だって私、バカだもーん」 酔っ払い特有の笑い声で美加が答えた。 「ったく……」 辰也は舌打ちをつくと、グラスのウイスキーと共に、言いたかった言葉を飲み込んだ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加