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「でも……
死んじゃったら、終わりなんだ……
思い出だけじゃツラい。
思い出だけで生きて行ける程、私強く無い。
私だって、人並みに寂しくなる時もある。
って言うか寂しい。寂しくて寂しくて寂しくて切ないよ……」
涙ぐみ、言葉を止めた美加に、辰也が再び口を開きかけると、美加が慌てたように話を続けた。
「私みたいなイイ女が、このまま後家さんで終わってたまるか。私だって幸せになりたぁーい!!
な、辰也もそう思うだろ?」
「もちろん」
「ぜーったいにー 幸せになるぞーー!!」
美加が笑いながら叫んだが、空元気なのか、酔っ払いなのか、判別出来ない。
「私さ、結構あちこちで口説かれるんだよ」
「そうなのか?」
辰也の片方の眉毛がピクリと動いた。
「今も会社で課長に口説かれてる」
得意気に美加が答えた。
「課長ってどんな奴?」
「東京の本社から来た役員候補。同じ歳の奴だよ」
辰也が不機嫌そうに、ひきつった笑みを浮かべたが、美加は気が付かなかった。
「あっ!そうだ!
…私、旦那で失敗してるから、男見る目に自信がないんだ。今度、ここに連れて来るから、辰也の意見を聞かせてよ」
「はあ!?俺がか?」
美加が当たり前のように頷く。
「美加。お前がバカなのは知ってるけど、おバカと記憶力は別問題だ。
お前。どんだけ記憶力悪いんだ!!」
辰也は先程から言いたかった話の一端を口にした。
辰也が言った『約束した女』とは美加の事であり、約束とは子供の頃に、美加を嫁に貰うと言った事を指していたのだが、完全にタイミングを外した今となっては、美加に辰也の言葉は届かない。
「だって私、バカだもーん」
酔っ払い特有の笑い声で美加が答えた。
「ったく……」
辰也は舌打ちをつくと、グラスのウイスキーと共に、言いたかった言葉を飲み込んだ。
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