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「お姉ちゃん?着物の?」
辰也の問いに桃華が頷く。
「つるの野郎……
危険は無いとか言いやがって」
辰也が不可思議な現状に、押し殺した声で怒りを露にすると、桃華が笑いながら首を横に振った。
「違うよ。辰ちゃんをここに連れて来たのは私」
「桃が?どう言うことだ?」
「だって、お姉ちゃんとは、もうお別れだもん。桃はお姉ちゃんの、たった一人のお友達だから、最後に辰ちゃんとお話しさせてあげたかったの」
桃華が、はっきりとした口調で、辰也をしっかりと見据えながら答えた。
外観は変わらないが、この世界の桃華は、どこか大人びてる。
だが、言ってる事が辰也には要領を得ない。
「お話って、俺がか?」
桃華が頷く。
「俺に何を話せって言うんだ?」
辰也が答えると桃華が困ったような表情を浮かべ、やがて顔を曇らせた。
大人びた部分はあるが、桃華は桃華である。深くは考えずに辰也をここに連れて来たらしい。
「まず、ここはお姉ちゃんの世界なんだろ?何でそんな世界に桃は出入り出来るんだ?」
状況を把握しようと辰也が尋ねた。
「お姉ちゃんが、私の中に入って来てるうちに、いつの間にか、私もお姉ちゃんの中に入れるようになったの」
桃華の中。それは桃華の心なのだろうか?
だとすれば、ここはお姉ちゃんの心の中なのか?幽霊に心はあるのか?
聞いた所で、これ以上の事は何もわからないだろうと辰也は判断した。
そもそも、お姉ちゃん。つまり、霊の存在自体が辰也には未知の世界であり、それを追求しようとも思わない。
非現実的な現実の真っ只中に自分は入り込んでしまった。
それが現実なのである。
そして自分は、この非現実的な世界から、桃華を連れて帰らなければならない。
桃華がお姉ちゃんの唯一の友達だとして、桃華にとっても、お姉ちゃんはただ一人の友達の筈である。
お姉ちゃんに会ってみよう。
……そう辰也は決心した。
「桃、わかったよ。お姉ちゃんは桃の友達だもんな。お姉ちゃんに会ってみるよ」
辰也が答えると、桃華が嬉しそうに顔を綻ばせた。
幽霊嫌いな辰也であるが、不思議と恐怖感は無く、先程の不安感は桃華と会った時点で消えていた。
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