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「で、お姉ちゃんは何処にいるんだ?」
「お姉ちゃんの世界だもん。呼べば来てくれるよ。ここは真っ暗なだけで何も無いんだ……」
悲しげに桃華が答えた。
(確かに……ここは暗闇の世界だった)
雪明かりと言う言葉があるが、それは例え僅かでも反射する光があっての事。
光の無い世界で雪が見えると言う事は、この雪は発光してるのか?
そう辰也は考えた。
「不思議な雪だ。この雪が放つ微かな光のおかげで桃の姿が見える……だけど寒いな」
辺りを見渡しながら辰也が言うと、桃華がクスクスと笑った。
「辰ちゃん、本当に寒いの?寒くないって思えば寒くないよ」
「えっ?」
「だって、この雪は桃が降らせてるんだよ。
ここは真っ暗なだけの世界で何も無いから、お姉ちゃんが喜ぶように桃が雪を降らせているの。
お姉ちゃんは雪がたくさん降る所で産まれたけど、子供の頃に江戸に売られちゃったから、雪を見ると喜ぶの」
得意気に桃華が答えた。
「桃にそんな事が出来るのか」
辰也が驚く。
「心が繋がれば何だって出来るよ」
そう言うと
「お姉ーェーちゃーん!!」
桃華が大声を出してお姉ちゃんを呼んだ。
(風!?……違うな……)
辰也と桃華を取り巻く、暗闇の空間その物がグニャリと歪み、それを辰也は風のように感じた。
数秒程で風が止むと、辰也はザワりとした、突き刺すような視線を背中に受けた。
身構えながら辰也が振り返るのと同時に、桃華が嬉しそうに「お姉ちゃん!」と叫んだ。
(………こいつが……お姉ちゃん!?)
そう思いながら、辰也はハッとしたように、後方に現れた女を見つめている。
カラン……コロン
カラン…コロン……カラ……
女が高下駄を弧を描くように引き摺りながら辰也に近づいて来た。豪華絢爛と云える衣装は、所謂、花魁スタイルである。
「そんなに見詰めて、私に惚れたか?」
辰也の数メートル手前で立ち止まった女が、威厳すら感じさせる冷たい響きの声で辰也に言った。
「あんた幽霊なんだろ?恐いのが出てくるかと思って、内心ビビってたけど、ずいぶんと綺麗なんだな……」
暗闇に降りしきる光る雪の中で、自らも光りを纏う花魁の姿は幻想的であった。
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