桜流

6/13
前へ
/39ページ
次へ
「優しい男だね。 私の為に泣いてくれるのかい…… 大昔の話しだよ。……もう良いんだ」 クジナが静かに言った。 「どうせロクでもない人生だったんだ。死んだ所で何の未練も無い。むしろ清々したよ。  ………なのに  私は死にきれなかった。 気が付いたら私は、悔しさと悲しみ。憎しみで出来た妖怪になっていた」 そこまで言うと、クジナが悲しげに笑みを浮かべた。 桃華の目の前にスッと一瞬で近づき、桃華の目線に合わせてしゃがみこんだ。 妖しさの消えた、柔和な瞳で桃華を見つめると、桃華の頭をそっと撫でた。 「桃華。ありがとう。 妖怪になった私の友達になってくれたのは、桃華だけだ。 桃華のおかげで、私は自分を取り戻した。やっと成仏出来る」 (……話が違うな。クジナは成仏したがっていたのか?) 辰也が疑問に思うと、心を読んだようにクジナが答えた。 「霊はみんな成仏したいさ。 ……だけど忘れてしまうんだ。 私が死んだのは江戸末期。長いことこんな状態だったから、私は既に妖怪の域に達してしまっているが、それでも成仏したいんだ。 しかし、憎しみの構成要素で出来た私は、負の感情以外は忘れてしまっていた。故に私のこの世界には闇以外に何も存在しない。 桃華が私に光をくれた。 だから私はこの子を独占したかった。 ……この子は私の光だ」 そこまで言うと、クジナが辰也の顔をじっと見つめた。 「お前。 私に見覚えがないか?」 クジナと絡み合った視線に、辰也の胸がキュッと痛んだ。 「わからない。 あんたを見た瞬間、何故か懐かしさを感じたが………」 ひょっとしたら、自分は前世でクジナと知り合いだったのでは?そう思いながら、辰也は素直に答えた。 「そうか……お前もわからないのか」 そう言って、クジナが寂しげに笑った。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加