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「優しい男だね。
私の為に泣いてくれるのかい……
大昔の話しだよ。……もう良いんだ」
クジナが静かに言った。
「どうせロクでもない人生だったんだ。死んだ所で何の未練も無い。むしろ清々したよ。
………なのに
私は死にきれなかった。
気が付いたら私は、悔しさと悲しみ。憎しみで出来た妖怪になっていた」
そこまで言うと、クジナが悲しげに笑みを浮かべた。
桃華の目の前にスッと一瞬で近づき、桃華の目線に合わせてしゃがみこんだ。
妖しさの消えた、柔和な瞳で桃華を見つめると、桃華の頭をそっと撫でた。
「桃華。ありがとう。
妖怪になった私の友達になってくれたのは、桃華だけだ。
桃華のおかげで、私は自分を取り戻した。やっと成仏出来る」
(……話が違うな。クジナは成仏したがっていたのか?)
辰也が疑問に思うと、心を読んだようにクジナが答えた。
「霊はみんな成仏したいさ。
……だけど忘れてしまうんだ。
私が死んだのは江戸末期。長いことこんな状態だったから、私は既に妖怪の域に達してしまっているが、それでも成仏したいんだ。
しかし、憎しみの構成要素で出来た私は、負の感情以外は忘れてしまっていた。故に私のこの世界には闇以外に何も存在しない。
桃華が私に光をくれた。
だから私はこの子を独占したかった。
……この子は私の光だ」
そこまで言うと、クジナが辰也の顔をじっと見つめた。
「お前。 私に見覚えがないか?」
クジナと絡み合った視線に、辰也の胸がキュッと痛んだ。
「わからない。
あんたを見た瞬間、何故か懐かしさを感じたが………」
ひょっとしたら、自分は前世でクジナと知り合いだったのでは?そう思いながら、辰也は素直に答えた。
「そうか……お前もわからないのか」
そう言って、クジナが寂しげに笑った。
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