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「お前も、とは?」
辰也がクジナに尋ねた。
「お前を初めて見た時、私は愛しさの感情を取り戻した」
そう言って、クジナが意外にも恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「……で?」
顔色を変えず辰也が話しを促す。
「おい! お前……
今風に言えば、お前は妖怪である私にコクられているも同然なのだぞ!
……こ…怖くは無いのか?」
「別に……
妖怪だろうが、イイ女はイイ女だ。
幽霊は苦手だが、クジナは大丈夫」
さらりと辰也が答えると、クジナが赤面して、やがて一滴の涙を溢した。
「スケコマシめ!
妖怪を泣かすとは………
お前はつるが言うように鬼畜以外の何者でも無いなっ!」
「クジナは花魁だったんだろ?『ありんす』とかって花魁言葉使わないのか?」
「例えば田舎の娘が、惚れた都会の男とやっとの思いで話す時、標準語を使うだろ」
そう言ってから、クジナは更に赤面して取り乱した。
完全に辰也のペースだった。
クジナは暫くの間、取り乱し、やがてそれを笑顔で見つめる辰也の視線に気が付くと、嬉しそうに笑った。
「妖怪を笑わせるとは………
お前は流石だな」
そう言ってから、一瞬の間を置いて呟くように言った。
「お前はあの人と同じ目をしてる」
「……あの人?」
「お前を初めて見た時、私は愛しさの感情を取り戻した。
お前を見ると私は嬉しくなった。優しい気持ちになった。楽しくなった………
恋しくて恋しくて……そして懐かしい気持ちになった。
何でお前に懐かしさを感じるのか謎だったが、つるが唱える経を聞いて、やっと思い出した」
そう言って辰也を見つめるクジナに、辰也は見つめ返す瞳で話を促す。
「ろくでなしな人生だったけど、私にも好きな男がいた。一緒になろうと約束してくれた男がいたんだ。
そんな大切な人の顔を何故か思い出せないが、お前と同じ目をしてる。お前と同じ香りがする。
私にも大切な人がいた。
その事を思い出したら、私を支配していた負の感情が消えてしまった。
私は成仏したい。成仏してあの人に逢いたい!
そもそも私を構成していた憎しみの感情が消えたのだから、私はもうこの世界にはいられないだろう」
清々しささえ感じるような表情でクジナが言った。
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