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──赤い猫は古ぼけた木製の壁の前に座り、流れ行く人々をつまらなそうに眺めていた。
月を思い浮かばせるような金色の瞳の瞳孔は昼間の明るさで細長くなっており、それだけで猫の周りの空気が鋭くなる。
首回り、腹、手足の先、尾先は白く、それ以外は赤い毛で覆われた猫。
目尻の辺りには黒い紋様が浮かんでおり、その異様さはどの国においても際立つだろう。
そして、この猫本人はそれを大して気にせず、ところ構わず口を開いてしまうのだから余計に質が悪い。
「全く、この町はチョコレートすらないのか」
女、または子供とも取れるやや高めの声はこの赤い猫のもの。
これで「ニャア」の一声でもあげることが出来たのならば可愛いげがあったかもしれないが、そんなことはこの猫に出来るはずがない。
古き狼王と呼ばれた大精霊エンシェントルーパスのプライドが許さないのだから。
本来の威厳ある狼姿など微塵も感じさせない容姿になった今も、エンシェントルーパスもといルースは小生意気な態度で鼻を鳴らす。
「確か、ソーリン国と言ったか。魔力の欠片すら感じられん、気味の悪い国だ」
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