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そんな時だった。
「もう、なんなのこの町! 何でどこも泊めてくんないの!?」
「やっぱ今回は宿に泊まろうよー、拓ちゃん。バイト代もまだあるし!」
「えっ、何で知ってんの? 俺残金教えてないよね?」
「昨日、拓ちゃんの上着を枕にして寝ようとしたら、ポケットにお財布見つ……いたあ!」
「どおりで何か腕んとこ湿っぽかったと思ったら、お前のヨダレか!」
何やらギャアギャアと騒ぎながら民家と思われる建物から男女二人が出てきた。
ルースは顔だけを右上に向け、物珍しそうに眺める。
容赦なく女の頭を平手打ちした黒髪の男。
背丈は成人男性の標準ほどだろうか。“おそらくあの阿呆と同じほどだ”、とルースは推測した。
騒ぐ割りには直ぐに戻る表情からは、興味ない、面倒くさい、そういった冷たさが窺えるが、女を見る瞳にはどこか温かさを感じる。
男の身なりは和服基調であり、藍鉄色をした腰丈の着物に黒いズボンをはき、膝まで丈のあるカーキ色の上着を羽織っていた。
そのフードが付いた上着を男が涙目で摘まむと、腰に差された刀の柄の一部が姿を現す。
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