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皆が寝静まった頃、俺は寮長室に赴いていた。
扉をノックして名前を告げる。
「一年一組の赤星です」
「入れ」
乾燥した冷気みたいな声の返答があった。
「失礼します・・・飲酒ですか」
麦酒缶を空けて飲んでいた。
つまりは教師と生徒で関係のない話か。
「そう固いこと言うな・・・ほら、そこに座るといい」
教官が指を差した椅子に座る。
「久しぶりですね、こうして話すのも」
「あぁ・・・あいつのこと以来だな」
脳裏に銀髪の少女の背中が焼き付く。その背は吹けば消える陽炎のようだった。
あの事は、全て覚えている。彼女の動きを1ミリ足りとも忘れたことは無い。
「教官、事を全部俺に振るんですもん、大変でしたよ」
「・・・今は千冬さんとでも呼べ。もう教官ではない」
「では、千冬さんで」
さて、と教官は前置きを作る。
「お前は精神年齢が常人のそれを大きく上回っているように感じられたからな・・・ハルフォーフやヒルデガルデには任せられなかっただろ?」
ハルフォーフとは、クラリッサのラストネームである。
ヒルデガルトは・・・後々説明しよう。
「二人ともあいつと仲悪いですからね。ヒルデガルトは途中から極端にすごい毛嫌いしていたような気がするけど、まぁいいか」
ヒルデガルトにはよく腕を引っ張られるという拷問をされたものだ。独逸に帰ったらまたあれあるのか・・・切実に帰りたくない。
「・・・お前は一夏と似てる」
「・・・何処がです?あんな鈍そうな男と一緒にしないでくださいよ、千冬さんは冗談が上手いですね」
俺は他人に対してあんなに優しい覚えもないし、馴れ馴れしくもない。
「・・・お前がそう思ってるならそうなんだろ。お前の中ではな」
えっ。
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