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「嘘だと言ってよ教官!」
「おまそう(略)」
ほろ酔いな感じで二度も同じことを言われた。正直ショックである。
「そういうことに興味のない私でもわかったんだ、お前がわからない筈なかろう?と思っていたんだが」
「・・・己に向けられる愛なんて要らないんです」
そんないつかは風化してしまうもの、要らない。
「お前にはまだこれからがあるだろう?第二の人生と言うのも考えていいんじゃないか?」
・・・伝えようか、俺の信条を。
「千冬さん。いや、織斑先生」
「・・・何だ?」
教官の酔いが醒めたらしい、俺が発する空気から真面目なことだと感じ取ったようだ。
「今の俺は、三つの絶望から成り立っている。
一つ、愛する者たちを失った絶望
一つ、愛を授かった者たちから裏切られた絶望
一つ、愛を授かる絶望
愛が俺を縛ると言うなら、
愛など要らぬ!三つの絶望(しんじょう)を持ってして、俺はこの世界に名を刻む。愛すると言うなら、俺の知らないところで勝手にやってくれ」
暫し聞いていた教官は、クスリと笑い出した。
「前言撤回だ。お前は、私たちに似ているよ。だが、一つ疑問がある」
「・・・何ですか」
この人の両親が蒸発したことを思い出し、少し情に熱くなっていたことを反省する。
「一つ目の、愛する者たちを失った、というのはどういうことだ?お前がその、両親から売られたことは知っている。が、それは二つ目だろ?」
すっげぇ失礼なことを聞くのな。俺だからかも知れないが。
教官にも常識はある。機械が扱えないってだけでな。
「前世って、信じます?」
教官が鼻で笑い飛ばした。信じない人か。現実主義者で何よりですわホント。
「すまない、お前にしては随分非科学的なことを言うじゃないか?」
「無視しますね。・・・俺は、たぶん夢を見たんです。両親を殺され、兄の右目が抉られて捨て置かれている、夢」
教官は麦酒缶を煽りながら、二缶目を開けた。プシュッ、といい音が鳴る。
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