Necktie

16/58
前へ
/70ページ
次へ
チラリと、向かいの席に座っている水原さんを見る。 何が面白いのか、ただひたすらに車窓の風景を眺めてるだけだ。 しかも、乗ってる間、ずっとこうだ。 あー……マジで早く着かねぇかな…。 イライラと腕時計を見ると、さっき見た時から、三分しか進んでない。 「田舎…」 「はい?」 突然、窓を見たままで、水原さんが喋り出し、声が変に裏返った。 「田舎の風景…いいな」 ……………えっと……それだけ? 「……そうですね」 はい!会話終了ー。 頭の中で、ゴングの鐘の音が響く。 僅か三秒で終わる会話って……。 項垂れたくなる気持ちで水原さんを見ると………。 ………一瞬、目が離せなくなった。 いつも微動だにしない、その顔が、少し微笑んでいたから……。 優しい目で、流れ行く風景を追う。 その顔に、一瞬、俺の中にある全ての不満が、消えたように思えた。 そして、その目に釣られるように、窓の外を見る。 …………あぁ。 ……そういや、こうやって緑色の風景を見るの、何年振りだろ。 そう思えたら、これはこれでアリな気がしてきた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

439人が本棚に入れています
本棚に追加