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水原さんの手を、そっと離すと、寄せていた身体も離して真っ直ぐに見つめる。
「今すぐじゃなくていいんで、考えてもらえませんか?……俺の事」
水原さんには、沢山考えてほしかった。
それが、一日でも、例え一瞬でもいい。
この人の頭の中を、俺だけで独占したかった。
きっと、フラれるに違いない。
それなら、それ位の水原さんの時間を貰っても、罰は当たらないんじゃないだろうか。
「時間かかってもいいんで、水原さんの答えが出たら、教えて下さい」
きっと、この人の事だから、クソ真面目に考えるんだろうな。
考えに考えて出してくれる答えなら、きっと納得できる。
出来なくても、根性で納得する。
そんでもって、ネクタイを毎朝キッチリ付けて、挨拶を交わすだけにしよう。
そうやって、少しずつ何もなかったように、先輩と後輩に戻っていく。
この人が、気まずくならないように。
俺に出来る、精一杯の誠意を示そう。
一番近い階のボタンを押して、エレベーターを止めた。
「俺、待ってますから……ずっと」
そう言い残して、扉が開いたエレベーターを降りる。
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