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「ネクタイを、外したままだったな」
いやいや、なんでここにきてネクタイに話をすり替えるかな。
「水原さん、俺は誤魔化されませんよ」
「いいから、じっとしていろ」
渋々、動きを止めた俺に、水原さんは近づくと、俺の首にネクタイを通して結び始める。
勿論、今日はレクチャーは無しだ。
「……言ってくれないんですか?」
恨みがましく言うと、水原さんは手を止めず、ネクタイを見たまま口を開いた。
「何とも思っていない相手のネクタイを、こうして結ぶと思うか?いくら親切な人間だったとしても」
「え…?それって、どういう…」
キュッとネクタイを閉め終えた水原さんは、ようやく俺の目を見て、イタズラっぽく笑った。
「そういう事だ」
そして、そのまま会議室を出て行こうとする。
え?
あれ?
それって…もしかして……?
俺より先に…?
「ちょっ、水原さん!?待って下さいよ!」
閉まりかけていたドアを、慌てて開けて、先を歩く水原さんを追い掛けた。
「遅刻するぞ」
笑いながら、そう言う水原さんは、足を止めずに先へと言ってしまう。
「水原さんって!ちょっと待って下さいよ!」
朝の廊下に、俺の大声が響き渡った。
END
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