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「すいません。何回、練習しても曲がるみたいで。俺って才能ないんですかねー?」
そう言った俺の言葉に、水原さんは真面目な顔をして、俺の顔とネクタイを交互に見た。
んな訳あるかっつーの。
内心、舌を出しながらも、顔には出さない。
「結び方に問題があるんじゃないか?」
これまた生真面目に、お手本通りに答える水原さんに、思わず笑いそうになる。
「そうなんですかね?自分じゃ分からないんすよねー」
そして、少し挑発的な笑みを浮かべながら言ってやった。
「なんで、水原さん。俺のネクタイ、締めてくれません?」
ザマミロ、どうだ!
大の男のネクタイを締めるなんて、そんな屈辱的な事ねぇだろ。
これに懲りたら、二度とネクタイに口出しすんな。
「…………」
勝ち誇った気持ちで、笑いながらネクタイをヒラヒラさせる俺を、水原さんは無言のまま見つめてくる。
三年にして、ようやく打ち勝った!
思えば、長い道のりだったな…。
なんて感慨深く考えていると、スッと水原さんの手が、俺に向かって伸びてきた。
咄嗟に、殴られるんじゃないかと思った。
勿論、それくらいは覚悟していたけど。
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