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負けてたまるか!と、引きそうになる身体をグッと堪えて踏み止まる。
が、予想は見事に外れた…。
手を伸ばした水原さんは、スルスルと俺のネクタイを解いてしまった。
「え…?」
呆気にとられている俺に、息がかかるくらい近付いた水原さんは、これまたクソ真面目に、ネクタイの結び方をレクチャーしてくる。
「ここの通し方が、少し違うな。これが曲がる原因だろう。ここさえ間違わなければ、曲がる事もない」
「はあ……そう…ですか…」
いま現在、起きてる事態が把握できない…。
なんで、普通にレクチャー受けてんの?俺。
違う違う、そうじゃないだろ?
なんで、あんたも普通にレクチャーしてんの?
嫌がらせなんですけど?これ。
細くて長い指で、綺麗にネクタイを締め直した水原さんは、自分の仕事の出来具合に満足したのか、ネクタイを見たまま小さく頷いた。
ダメだ……普通に気付いてねぇ…。
俺の嫌がらせは、嫌がらせとして認識されてない。
どんなスルースキルだよ、それ。
「憶えたか?」
そう問われ、『全く聞いてませんでした』とは言えず、「はあ……家で練習してきます…」と答えるので精一杯だ。
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