Piano:叶side②

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***    『昨日はライブの打ち上げで飲み過ぎて、今日は二日酔いです。叶さんはお酒が呑めるほうですか? 賢一』  次の日以降、賢一くんからこういうメッセージが、マメに送られてきていた。多い日は、朝昼晩と送ってくる。  内容は大したものでないものの連絡先を教えた手前、返信しなければならない。仕事の合間をぬって送信していた。 『お酒はたしなむ程度に呑みます。自分の酒量を弁えずに呑む人は、ちゃんとした社会人になれません』  忙しい仕事の中でいつの間にか、賢一くんからのメッセージルが唯一の楽しみになった。さりげなく私の情報を探ったり、思いやりの言葉等など、無理に頑張っている姿が目に浮かぶ。  そんなある日、帰宅しながら返信している最中に、ふと視線を感じた。  気のせいかもと思いつつ振り返ったら、電柱の影に人の気配を察知した。慌てて走って自宅に帰る。  リビングの電気をつけずに、カーテンの隙間から外を見ると、クリスマスイブの日にしつこく迫ったあの男が、こちらを見上げていた。家までバレているとなると、前からつけられていたのかもしれない。  史哉さんの自宅に行くときは、会社の人間に見つからないように細心の注意をはらっているから、多分大丈夫だと思う。  だけどまさか、自宅につけてくるヤツが現れるなんて――。  明日賢一くんからメッセージがきたら、一緒に帰れるか聞いてみようと考えた。イブに代理彼氏になってもらってるのに、一緒に帰らないのはおかしいとストーカーに思われたら、襲われるかもしれないから。  そして次の日、いつも通りの何気ないメッセージがきた。内容の返事はスルーして、今日お店に迎えに来られるかと送信してみる。予想通り、OKの返事だったけど――。 『お迎えは大丈夫です。お迎えついでなんですが、授業で分からない部分があるので、教えてもらえませんか? 無理にとは言いませんので、考えてみてください』 (授業で分からないトコがあるから教えてくれ!?  これってなんとかして、自宅にあがろうというのが、思いっきり見え見えなんですけど)  下心丸見えのメッセージに頭を悩ましたけれど、背に腹は変えられないとの内容の返信をした。  ストーカーよりも厄介な男にお迎えを頼んでしまったかもと、少し後悔した。だけど会ったら、どうやっていじってやろうか考えるだけで楽しい。おかげでお店でも常に笑顔で、お客様に対応することができた一日だった。
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