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大学のカフェスペースでボーッとしている俺に、声をかけてきたたまさやん。
「やっと見つけた」
いつもなら俺からまさやんにアクセスしていることが多いため、彼がこうしてわざわざ苦労して俺を捜し出すことが、かなり珍しかった。
「おまえ、俺がいるところにいつも湧いて出てくるのに、今日はどうした?」
まさやんは心配な表情を浮べて、向かい側の席に座る。
どうしたと質問されても、実際はなんと答えていいのかわからず、だんまりを決め込んでしまった。
「けん坊、もしかして昨日のお迎えでなにかドジでもして、思いっきり振られたとか?」
「口封じされた……」
「口封じって、殺されそうになったのか?」
「殺されそうとかじゃなく、まんま口封じ……」
そうなのだ、俺が突っ走って喋ってるのを止めるべく、叶さんに口封じされた。しかも俺の想いを完全にスルーして、家から追い出される始末。
「いったい、なにがあった?」
こちらを慮り、そっと聞いてくるまさやんを見たときに、ふとあることに気がついた。
「まさやんさ、大学入学した日に一目惚れしたよね」
「いまさら、なんの話だ?」
「だけど一目惚れ相手には彼氏がいて、ショックを受けてた。切なそうな目をして、じっと彼女を見てたっけ」
その目と同じものを、叶さんが昨日していた。熱っぽいのにやるせない、どこか諦めた瞳――もしかしたら叶さんは、誰か好きな人がいるのかもしれない。
「話がまったく見えないぞ、けん坊大丈夫か?」
「なにから話したらいいか、全然わからないんだ」
先程、叶さんから来たメッセージ。
『昨日は突然、あんなことをしてごめん。会社でのストレスを賢一くんにぶつける形になってしまったのは、申し訳なく思っています』
「ねぇまさやん、ストレスで好きでもない人とキスができる?」
「なんでストレスのせいで、そんなことをするんだ?」
ワケがわからないと、まさやんの顔に書いてある。俺にもさっぱりわからない……。
「口封じってもしかしておまえ、昨日あの年上に襲われたのか?」
俺の話をまとめて、深慮したまさやんが言った。
「あのね、はじめに手を出したのは俺……」
玄関先で叶さんを抱き締めた。その後思いがけずに告白しちゃってからの口封じ。
「叶さんの家で、俺が一方的に自分の想いを伝えまくったら、あまりの煩さにキスされて、見事に口封じされた……」
「自分の想いって、どんなことを一方的に喋ったんだ?」
訝しげなまさやんに勢いとはいえ、告白したのは正直言いにくい。
「えっと、叶さんに対する日頃の意見といいましょうか、なんて言ったらいいんだろ」
「ははん。率直な意見が見事に図星で、誤魔化すのにキスしたんだろうな」
顎に手をあてて、いかにも様になるポーズをとってるまさやん氏。一方俺はというと、浜辺に打ち上げられたトドよろしく、テーブルに上半身を乗せていた。
「今夜もお迎え行くんだろ? 理由を聞いてみればいいじゃないか」
「当の本人はストレスって言ってるんだから、絶対に無理だと思う」
俺はスマホを見せる。先程のメッセージを読んだまさやんが、訝しげに眉根を寄せた。
「年上の考えることは、さっぱりわからん」
「俺も叶さんがなにを考えてるのか、さっぱりわからない」
今夜は本社にお迎え。しかも向かい側にあるコンビニで待っててと指定されていた。
どんな顔して、会えばいいんだろう――。
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