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「まったく……。ホントに講義に出てるの?」
現在叶さん宅にお邪魔している。いつものように課題をこなしている俺の傍で、彼女はお持ち帰りの仕事をしていた。
一服すべく、叶さんが淹れてくれたお茶をすする。
「出てるよ、ちゃんと」
出てるけど全然頭に入ってないので、出てないのと同じだろう。
呆れ顔の叶さんを見ると、胸がキュンとした。この人が俺の彼女なんて、未だに信じられないや、ほわーん。
「また変なコトを考えてるし」
「叶さんには何でもお見通しだね。嬉しいなぁ」
「留年するわよ」
「それもいいかもなぁ。こうやって叶さんに勉強を見てもらえるし」
またまたほわーんとする俺を見て、深い溜息をつく叶さん。その見る目の白いことこの上ない。
「おバカな彼氏は持ちたくないわ、留年したら振ってやる」
彼氏というフレーズに一瞬歓喜したが、その後の言葉で現実に戻された。振るだけは勘弁してほしい……。
「振られないように頑張ります、はいっ!」
俄然やる気の上がった俺なのだが、その集中力は蟻んこ並みでだった。手を止めるとついつい、叶さんを見つめてしまう。その視線に気がつくと左手をグーの形を作って、殴るわよと無言で脅してきた。
「ちょっとくらいいいじゃん、減るもんじゃないのに」
ボソッと文句を言うと、振りかぶって殴られた。かなり痛い、本気で殴ったな……。
「こっちだって仕事してんの。チラチラ見られたら落ち着かないでしょ。君は私の邪魔をしたいの?」
「邪魔する気なんて、さらさらないよ。だけどしょうがないじゃないか。叶さんが好きなんだから」
「…………」
叶さんは俺の言葉に反応せず溜息ひとつついて、パソコンの画面を見る。華麗に俺の気持ちをスルー……いつもそうだ、このやり取り。
俺はこたつむりよろしく、その場にゴロンと寝転がった。
モヤモヤ考えてても仕方ない、お腹もすいたし何か食べよう。
立ちあがりキッチンに向かって、冷蔵庫を開けてみた。いつも通り何も入ってない――
「叶さん、どうして冷蔵庫にカロリーメイトが入ってるんですか?」
キンキンに冷やして、食べたら美味しいとか?
しかし、俺の質問をしっかり無視……。次に冷凍庫を開けてみる。
「叶さん、どうして冷凍庫に、スルメイカが入ってるんですか?」
もしかしてこれも、凍らせて食べると美味しいとか?
「……多分この間、会社帰りにコンビニに寄って、ワンカップと一緒に買った物だと思う」
「ワンカップ……」
――オヤジか!?
「帰りながら一気呑みしたら酔いが回って、その勢いで入れたんじゃないかな」
空腹にお酒入れるから酔うんだよ、まったく。
内心呆れながら冷凍庫を閉めて、自分の財布を手に玄関に行った。
「そこのスーパーで食材買って来ます。何か食べたい物はないっすか?」
叶さんの後姿に問いかける。
「賢一くんの作る物なら、何でも食べる」
なぁんて可愛いことを言ってくれた。堪らずに後ろからぎゅっと抱きしめてやる。えい。
「仕事中!」
そんな怒りをスルーして甘えながら(とか言いつつ恐る恐る)聞いてみる。
「今晩泊ったらダメ?」
「何で?」
「明日からバンドメンバーのオーディションするから、しばらく会えなくなるし」
会えなくなるのが寂しいとは言えない。でもあっさりと承諾してくれた、稀にみる奇跡!!
「私もこれから遅くまで残業が続くと思うから、今までのように会えないと思う」
「それじゃあ、朝ごはんの食材も一緒に買って来ます。何を作ろうかなぁ」
離れる前にもう一度抱きしめてから、軽い足取りで玄関に向かった。ウキウキしながら、スーパーに向かう。
一晩だけどずっと一緒にいられることが、嬉しくて堪らなかった。
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