Piano:重なる想い

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***  パタンと扉が閉まる音を聞いて、後方を振り返った。賢一くんがいないことをしっかりと確認して、カバンからレターセットを取り出す。  メールで別れを告げるのはやはりいたたまれなかったので、手紙で伝えることにしたのだけれど、なかなか筆が進まずにいた。  途中まで書いている文面を読み直す。一方的に別れを告げている文章――私自身、史哉さんへの想いを断ち切るかのようなその内容に、今は胸が痛まなかった。 『叶さんじゃないとダメっす』  真っすぐな賢一くんの瞳が、頭の中に思い出される。体だけじゃなく、心まで温かくしてくれる彼の気持ちがとても嬉しかった。  今すぐに「好き」なんて言ってやらない。言ったらどうなるか目に見えているから。すごくつけ上がって、手に負えなくなるだろう。今だって、かなり持て余しているし……。 「叶さん、好きです」  事あるごとに連呼する、その言葉を言わせているのは、きっと私のせいだろう。  ひとつ溜息をついてから手紙に最後の別れを書く。さよなら……と。
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